2014年12月6日土曜日

B柔術教則本コラム 番外編(3) 説得力と実感


こんにちは、早川です。

番外編(2)では、キムラアームロックについて踏み込んだ説明を書きました。

今回のコラムでも私のインストラクション技法を少し述べてみたいと思います。これはトライフォースのインストラクター研修でも必ず伝えているマニュアルの一つです。

技を教える際には、大筋の手順の説明すると同時に、

1.なぜそうするのかという「理由」

2.なぜそうなるのかという「技の仕組み」

3.そうしないとどうなるのかという「失敗例」

この3つを補足として加えると、技の説明に「説得力」が生まれます。

しかし本書、及びDVDでは「これはこうして下さい」と断言する形で行っている説明がほとんどです。

これは1テクニックにつき説明時間が2分という時間的な制約があったことから、そのような方針でやりきろうと判断しました。

私の過去の著作「柔術技法」のような詳細説明を期待されていた方には、少し物足りない部分もあるかもしれません。

しかし初心者に対して、あまり多くの情報を伝えすぎるのも実はよくありません。断言した事をその通りに再現してもらうことに集中してもらった方が良い場合もあります。

そういった意味では、本書はバランスの取れた教材になっていると思います。

ちなみに、トライフォースの実際のクラスでは、前述のような補足説明を必ず行っています。しかしそれでもあまりダラダラと話さないよう時間を決めて説明をしています。

セミナーではもちろん長時間の説明を行う事もありますが、通常クラスではフォーマット通りやることに主眼を置いています。

しかしたまに脱線することもあります。一昨日がまさにそうでした。以下内輪ネタが少々加わります。ご容赦下さい。

その日の夜のビギナークラスには、17年前からの同門である中田さんが参加されました。普段は私が指導しないシフトだったのと、中田さんも稀にしか練習に来られないのとで、私のクラスに参加されるのは数年ぶりという状況でした。

普段の私のクラス内では、私がそういうオーラを出してしまっているのか、みなさんは個別にはあまり質問をしてくれません(笑)。しかし中田さんは問答無用に聞いてきます。それに答える形で、色々と横道にそれた話や説明をすることになりました。

私は「パートナーがどのようにこの技を受けるべきか」ということもよく説明していますが、安全な受け方、怪我をしない受け方について特によく指示します。

これらのコツは私の長年の練習と指導における経験則から、私のインストラクション技法に蓄積させたものです。

シットアップスイープを受ける際の足首のフォームについては、実は私自身が中田さんの膝の靭帯を断裂させてしまった事がきっかけで、その後、私のインストラクション技法に加えたものでした。その本人が今日参加してくれているということで、クラスでもその話題を展開しました。

あの時は、つま先を外側に向ける座り方(カエル足?)をしている中田さんに対して、私が全体重を浴びせてしまい、中田さんの内側靭帯を断裂させてしまいました。今も塩原がよくその座り方をしているので、いつもヒヤヒヤしながら見ています。

自分が押さえ込む時も、いわゆるそのカエル足ではなく、”正座”や”爪先立ち”を私が推奨しているのは、みなさんが膝の靭帯を痛めないか不安なのと、股関節の柔軟性が必要だからです。

カエル足で腰を反らせてすり上げるようにして押さえる技法も、腰への負担があるので私は基本技法としては教えていません。あくまでもオプションとして教えています。

「25秒押さえたら勝てる柔道」と、「20秒押さえたら反則を取られる柔術」とでは、抑え込みの目的や質が根本的に変わってきます。

シットアップスイープを掛ける際の体の起こし方も、過去に「腹筋が1回も出来ない会員さん」に教えた時の失敗を教訓とし、いきなり体を起こして手を後方に着くのではなく、横を向きながら起き上がっていく今のインストラクション技法に切り替えました。

このように、私は自分の経験則で得たコツを、何十年間もスタンダードとされてきた技法よりも、時として優先させています。セルフディフェンスとしての柔術を白帯時代に学んで以降、競技柔術家としての私はほぼ独学でここまで来ましたので、自分の直感には従うことにしています。

直感と言っても第六感的なものではなく、経験則とは切り離せないものだと考えています。

例えば、送り襟絞めを掛ける際の手首の使い方についても、手首を手前に返す、奥に返す、斜め前方に曲げる、瓶の蓋を開けるように捻る等々、伝えられているあらゆる方法を18年間試して来ましたが、実際に私が最も有効であると考える方法は1種類ですので、それのみを教え続けています。

なぜその1種類になったのか。理由はしごくシンプルです。それは実際にスパーリングや試合において相手を絞め続けて、最もナチュラルだと実感した手首の形がそれだったからです。

私は実践を繰り返すことによって得られた実感を最も大切にしています。その実感が経験則となり、また新たな直感をもたらします。

こういったものは、自分で流した汗以外、他のものからは到底得られるものではありません。修行期における気の遠くなるほどのスパーリング量によってのみ、得られるものだと思います。